旦那様の夜 表紙
DOMESTIC DAYS #3
初めて使った新居のシャワーは、今まで住んでいたアパートのものよりも水圧が強く、浴びていて気持ちが良かった。先に使ったクロロも、同じ事を思ったのだろうか。「後でそれとなく聞いてみようかな♣」と呑気に考える。 後で。後で。後で。ボクはその「後で」を想像してしまった。 いてもたってもいられず、急いで浴室から上がる。ベッドをセットしただけの、まだまだ未完成な寝室へ早足で向かった。今夜こそは、今夜こそはクロロとイチャイチャするんだ……! 扉の前に立ち、一呼吸置く。そう急いてはクロロに白い目で見られてしまう。スマートにいこう。 ゆっくり扉を開く。照明は付いておらず、窓から差し込む月明かりが目を引く。窓際に置かれたキングベッドに、黒い影。身体を横たえていたクロロは、ボクに気づくと静かに起き上がった。ベッドの縁に腰掛け、横にあるシーツをポンポンと叩く。 ボクはゴクリと喉を鳴らし、そっとクロロの隣に座る。すると、クロロはゆるりとした手つきで着ているパジャマのボタンに指をかけた。衣擦れの音。きめの細かいクロロの肌が、月光を受けて青白い光を放つ。露出したクロロの肩と胸を、ボクは食い入るように見つめた。 「……こないのか?旦那様」 しばらく沈黙が続いた後、俯いたクロロがぽそっと呟いた。辛抱たまらず、クロロを抱き寄せる。肩から二の腕にかけて撫でると、肌がひんやりしていた。 「今日は少し涼しかったね♣」 洗いたての黒い髪に顔を埋める。サボンの香りに混じった、紙とインクの匂い。愛しさが溢れ、ボクは髪にキスをした。次に、額。鼻。頬。そして、唇。啄むようなキスを繰り返す。クロロはギュッと目を閉じ、それを受け入れた。 口内に舌を差し入れると、堰を切ったようにクロロはボクの首に腕を回した。舌と舌が重なり、蕩け合う。ボクは餌を投げられた獣のようにクロロの唇を貪った。整った歯列を舌でなぞると、彼はさらに強くボクの首にしがみついた。 名残惜しみながら唇を離すと、透明の糸が引いた。微かに開いた口元から、熱い吐息を漏らすクロロ。幼い顔立ちと淫らな表情がアンバランスで、実に悩ましい。 「もう一度『旦那様』って呼んで欲しいな、お兄ちゃん♥」 「……………………」 クロロは黙って、またボクの首を抱きしめる。ボクは笑いながらクロロの胸元に唇を這わせ、汗の粒をべろりと舐め取った。ひくっ……とクロロが小さく跳ね上がる。その反応が可愛くて、ボクは舐めた跡に歯を立てた。 「ん゙っ……」 クロロの細い腕が、ボクの首に食い込む。少しだけ苦しかったが、構わずボクは噛む力を強めた。柔らかな肉を蹂躙する快楽に、視界がぼやける。 「い゙っ……その癖、いい加減直せ」 「またタートルネックしか着れなくなるだろ」 我に返り、口を離す。「ごめんごめん♣」と生返事をする。内出血し、赤く腫れた跡をペロペロ舐め、申し訳程度の誠意を見せた。クロロの肌の匂いに触れると、本能が揺さぶられるのだ。クロロは悪癖と呼ぶが、この誘惑には勝てない。仕方がない。歯に残った肉の感触を反芻する。 「ささ、解してあげるから♥」 声色を変えて誤魔化し、クロロを仰向けに寝かせる。新品の枕に頭を預けた彼は、居心地が悪そうにボクから視線を逸らす。しかし、ズボンと下着を脱がせようとすると、素直に腰を上げて応じた。下着をずらすと、クロロの膨らんだモノが転がり出た。ふるふると揺れるそれを見て、ボクの顔は綻んだ。 「なんだ、今晩を楽しみにしていたのはボクだけじゃなかったようだね♥」 「…………っ」 「……どうだろうな」 ボクはベッドの隣に置いてある、前の家から持ってきたサイドチェストの引き出しを開けた。ローションとスキンを取り出す。とろみのついた液を容器から手のひらに移し、体温で温める。 「そのローション、匂いが嫌いだ……甘ったるくて気持ちが悪い」 「そんなこと言って、キミは甘い物が好きじゃなかったのかい?」 「甘い食べ物が好きなんだ、食べられないそれに価値はない」 「はいはい……♠︎」 「ほら、ボクを上手に誘ってごらんよ♥」 クロロは膝を折り曲げた体勢で、そっと股を広げた。ベビーピンクの小さな蕾が顔を見せる。そのぎこちない動作に、ボクのアソコは膨張し続ける一方だった。 綺麗に閉じられた皺を、円を書くように指で撫でる。すると、クロロは呼吸を乱し、縋るような切ない表情を浮かべた。口元から赤い尖った舌が見え隠れしている。扇情的なその舌を、ボクは唇で吸った。ちゅっ…ちゅくっ…ちゅうぅ……と淫らな水音が部屋に響く。 指を一本、つぷりと中に滑り込ませる。クロロの身体が強ばり、歯と歯がぶつかる。 「なんだか今日はやけに初々しいね♥」 「……演技をしているからな。お前、こういう反応が好きだろう?」 「演技だったのかい?だったら、そんな事をする余裕が無くなるくらい遊んであげないとね♠」 指をもう一本増やし、出し入れを繰り返す。その動きに合わせ、捲れたり、中に押し込まれたりと形を変えていく秘部。昂りすぎて、指を上手く動かせない。脳に届くべき血液が、全て下半身に集まっている。それが相手に気づかれぬよう、ボクは言い添えた。 「キミの中、ボクが欲しくて仕方がないみたい……キュウキュウ吸い付いておねだりしているよ♥」 温かくぬめりけのある中が、ボクの指を逃がすまいと締め付ける。唇を噛み締め、言葉にならない声を溢すクロロ。汗ばんだ額に張り付いた前髪を、ボクは優しく払ってやった。お互いの目を見つめ合うと、彼は「ヒソカ……」と掠れた声でボクの名前を呼んだ。これもボクを狂わせるパフォーマンスの内に過ぎないのだろう。 二本の指をバラバラに動かすと、ぐにぐにとグミのような弾力のある箇所に触れた。ボクはぐにゃりと口角を上げる。 「あ゙っ…あ゙がっ…あ゙ぁ゙っっ……」 ゴリゴリと一気に前立腺をいじめ抜く。クロロは背中を仰け反らせながら果て、両の目からほろほろと涙を流した。赤らんだ頬に、光の粒が輝く。素晴らしい、男の加虐心を煽る素振りとして100点満点だ。そして、ボクもいよいよ限界だ─── 指がもつれて上手くスキンがつけられない。もどかしさに震え、息を荒らげる。すると、鼻を啜りながらそれを観察していたクロロが、ボクの耳元でそっと囁いた。 「……一度、口でシてやろうか?」 ♥ ♠︎ ♦︎ ♣ ボクの股の間に、クロロの顔がある。淫猥な笑顔をたたえながら怒張したボクのモノに頬擦りをするクロロを見て、今までの乱れた姿は本当に演技だったのだと悟る。決して強がりなどではなかったのだ。きっとボクが喜ぶ様を見て、心の内で嘲笑っていたのだろう。全く、食っても食っても食い切れぬ男だ。 熱く、湿った舌がボクの先端に触れた。尿道口を舌先でつつかれる。味蕾のざらついた感触に、ボクのモノがひくひくと痙攣する。ちろちろと舌を動かすクロロは、獲物を前にした蛇のようだった。なんとなしに、黒い髪を撫でる。すると、クロロは亀頭を口に含み、甘噛みしだした。 バチバチと電気が走るような快感が全身を貫き、「ん゙っ……」と声が漏れる。すると、クロロは亀頭から口を離し、「ふっ」と吐息を吹きかけた。妖しく笑うと、今度は裏筋にやわやわと唇を這わせ始めた。淡い刺激が押し寄せる。ボクの鼓動は早まり、目の前が真っ白になった。 ついに、クロロがボクのモノを咥え込んだ。小さな口に入り切らない根元の部分は優しく手で包み、摩っている。ボクが「全部咥えたら、口が裂けちゃうかもね♠」と軽口を叩くと、クロロは黙ったままカリ首を舐め回した。執拗な舌使いに耐え切れず、撫でていた髪をくしゃりと握りしめる。 ゆったりとした上下運動が始まり、じゅるる…じゅっ…じゅっ……と音が鳴る。上目遣いのクロロと目が合う。先走りを纏った形の良い唇が、ぬらりと光った。 あのエッグマフィンのベーコンを引き抜いていた口が、本棚について熱く語っていた口が、プリンアラモードを美味しそうに食べていた口が、ボクを「旦那様」と呼んだ口が、ボクのモノをはしたなくしゃぶっている! 「はぁ…はぁ…うっ……♥」 精液が尿道を伝い、噴き上げる。余韻が抜けない。極度の興奮で朦朧とし、愉悦の表情を隠せぬまま上から見下ろす。クロロは口の端から青白い液を垂らしながら、こちらを睨みつけていた。急いでその辺に転がっていた箱からティッシュを引き出し、差し出す。 クロロはそれを無視すると、ボクの口元に唇を寄せた。自分の精液が口内に侵入してくる。粘ついた液が喉にへばりつき、ボクは顔を歪めた。舌と舌が絡み合い、二人の唾液と精液が溶け合う。むせそうになると、クロロは顔を離してくれた。 「う〜ん、独特な味がして……あんまり美味しくないね♠」 「ああ、そうだな。昨日のワインと、どちらがマシだろう?」 「キミには美味しいものだけ食べさせてあげたいんだけどな♠」 「……少しは落ち着いたか?」 クロロは未だに真上を向いているボクのモノにそっと手を添えると、亀頭にキスをした。 「ゴムもまともにつけられない紳士さん、これでもうおしまい?」 今まで虫の息だったボクの中の紳士は、そこで完全に死にさらばえた。その亡骸から一匹の犬が顔を出し、「ワン」と吠えた。 ♥ ♠︎ ♦︎ ♣ 「あっ…あん…あんっ」 冷やかすような、卑しむような目でこちらを見あげ、クロロが喘ぐ。娼婦さながらのわざとらしい嬌声。馬鹿にされていると分かりつつも、ボクは腰を止めることができなかった。ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ。汁気を帯びた肉と肉がぶつかり合う音が、頭の中に響く。 クロロが肌を晒せば、ボクは屈服する他なくなる。これは、ボク達の間のお決まりである。クロロはゲームで負けそうになった時や、ちょっとした言い合いになった時、必ずボクに「策略」を用いる。それに嵌ったボクは、抵抗力を失った情けない雄としてあっけなく征服される。どんな勝負も、夜を迎えてしまえばクロロの勝利。そんなお決まりだ。 淫りがわしくワイシャツをはだけさせ、白い肩と鎖骨をボクに見せつける「策略」。本で覚えた卑猥なセリフをボクの耳元で囁く「策略」。ボクの頬にふぅっと吐息を吹きかける「策略」。いくつかあるクロロの「策略」だが、特に股間を柔く踏みつけられる「策略」にボクは弱かった。 ボクの唾液と精液に塗れつつ、したり顔をするクロロは、昼間とは打って変わって聡明な瞳に陰りを見せる。彼は紳士としての誇りを投げ捨てて獣欲に溺れるボクをせせら笑いながらも、その醜悪さの虜になっているのだ。 ボクとクロロ、一体どちらが無様なのだろう? ───いや、比べるだけ野暮というものか。 「一体、いつからキミはそんなふしだらな男になってしまったんだい?」 「お前みたいな変態をずっと相手にしていれば、こうもなるだろう」 まだまだ硬直し続けているモノを、蕩けた奥処からゆっくり引き抜く。先走りが流れ落ちる鈴口を、クロロの窄まりに擦り付ける。 「随分とボク好みに育ってくれたんだね♥」 「責任取るからさ、もっと、も〜っと淫乱になってみせてよ♥」 「……最低だな」 クロロはボクを押し倒すと、その上に跨った。ボクの亀頭に後孔をあてがい、静かに腰を沈める。 「んっ…んうぅ……っ」 艶めかしく身体をくねらせ、小ぶりな尻をボクに打ちつける。喘ぎ喘ぎ、クロロはこう唱えだした。 「あ…んっ……ダーリン、セニョール、モナムール……んんっ…王子様、紳士様、ご主人様、旦那様……」 ボクは「旦那様」と呼ばれた瞬間、ピクッと反応してしまった。 「はは、やっぱり旦那様がいいんだ」 「……こんなはしたない嫁を持って、可哀想な旦那様」 くすくす笑うクロロ。限界を迎えていたはずのボルテージが、更に跳ね上がる。「旦那様」という言葉が頭の中で何度も反響し、気づけばボクの眼球はぐるりと上を向いていた。 「ボクのお嫁さんをそんな悪く言っちゃ、いけないよ♠」 ボクはクロロの腰を両手でガシリと掴むと、力いっぱい下から突き上げた。 ♥ ♠︎ ♦︎ ♣ 「あ゙っ…ぐっ……ひそか、も、やめっ……」 「『旦那様』、でしょ?」 「だ、だんなさ……っ、やめ…やぁ……っ」 ボクの下でクロロがぐねぐねと身体を捩り、悶え喘いでいる。弱々しく抵抗するクロロの腕を捕らえ、噛みつく。ゆっくり口を離すと、今度は噛んだ跡に舌を這わせ、舌触りを楽しんだ。歯型の凹凸と、滑らかでみずみずしい肌…… 窓から差し込む仄かな光。遠くから聞こえる踏切のベルの音。クロロの啜り泣く声。それを認めたボクは、頭を強く叩かれたような、息が止まったような錯覚に陥った。 「…………ごめん♠」 「満足したか?この気狂い」 クロロがよろよろと上体を起こす。白い胸に散った真っ赤な噛み跡が、牛乳に落としたイチゴジャムのようだった。 「そう言わないでくれよ♣」 「一緒に湯に浸かろうか、ねぇ♦︎」 「もうそんな体力ない。お前が入れろ」 「ふふ、甘えん坊さんだねぇ……♥」 ボクはクロロを横抱きにすると、シャワールームへ向かった。クロロはボクの腕の中で身を縮め、大人しく運ばれていた。何事もなかったような顔で、足をプラプラさせている。 やはり、先の啜り泣きも芝居か。しかし、あの悲鳴混じりの嬌声だけは妙に現実味があったような……うーん、本当に全て演技だったのだろうか? そもそも、いつからクロロは自分を演じるようになったんだ?出会った時から?昼間のクロロも、可愛い恋人を装っているに過ぎないのか……? ───クロロについて知っている事柄は、驚くほど少ない。いつか、いつか素のままのクロロに触れてみたいものだ。 「お前は何のためにコンドームを買っていたんだ?風船遊びでもしたかったのか?」 「ごめんってば、掻き出してあげるから許してくれよ♣」 泡立てたスポンジをクロロの身体に滑らせる。ボク好みの肉付きをした胴や、しなやかに伸びた四肢を、熟れた果実を扱うように優しく洗う。 黙ってボクの手を享受しているクロロだったが、噛み跡にスポンジが触れた途端、顔を歪めた。 ボクはその反応を前にして、反省より先に高揚してしまった。ほんの一瞬だけ見せたクロロの素……だったのかもしれない。彼のこんな顔を拝めるのは、ボクただ一人だけなのだ。今後一切、ボクにしか見せない表情にしてやる。……おっと、いけないいけない。恋人ならば、笑顔を見た時にこう思うべきだよな。前言撤回。 「このシャワー、気持ちいい…水圧が強くて……」 クロロの呟きに、彼の肌の上を溶けて流れていくボディソープの泡を眺め、うっとりしていたボクは反応が遅れた。泡を薄くまとった皮膚が、より一層白く、美しく見えた。 「え、ああ……そうだね、そうだねぇ……♦︎」 「なんだ、気味の悪い」 「ふふ、折角だし入浴剤でも入れたかったけど……ダンボールの中か♠」 バスタブから湯気が立ち上っていた。 ♥ ♠︎ ♦︎ ♣ 「その子、邪魔だなぁ……今朝みたいにボクを抱き枕にすればいいじゃないか♠」 「邪魔って、お前がオレに買い与えた物だろう」 「そうだけども……♠」 「コイツはフワフワで、腕の収まりが良くて……抱き心地が最高なんだ。ゴツゴツでやたらデカいお前とは天地の差だな」 パジャマ姿でベッドに寝転がり、サメのぬいぐるみを抱えるクロロは、穢れを知らないいたいけな少年のようだった。先程までの淫売じみた彼の振る舞いは、溜まりに溜まったボクの愛欲が生み出した幻だったのかもしれない。 「じゃあ、今度はボクがキミを抱き枕にしようかな♥」 クロロの薄い身体を、サメごと抱きしめる。艷のあるまっすぐな髪に頬擦りをすると、えも言われぬ多幸感に包まれた。面倒臭がる彼をなだめて、丹念にドライヤーをかけた甲斐があった! 「明日……もう今日か、起きたらキッチン周りを片付けるからさ、そしたらパンケーキを焼いてあげるよ♥」 「そうか、ホイップクリームとナッツを乗せたい」 「ホイップクリームか……たぶん切らしてるな♠」 「買ってこい」 「一緒に買いに行こうよ♦︎」 「どこかの旦那様が滅茶苦茶にしたせいで、身体が痛くてダルくて仕方がないんだ」 「だからごめんってば……わかった、買いに行ってくるよ♣」 クロロはまどろみの中で「ならいい」と短く呟く。窓に目をやると、陽の光が差し込んでいた。カーテン、早く届かないかな。
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